お口の健康
「シニア講座」
シニア世代の歯と口に起こることや
歯のお手入れのコツをご紹介
いつまでも健やかに過ごすには
このコーナーでは、60才以上で自分でオーラルケアを行える人を想定した
シニア世代のオーラルケアについてご紹介していきます。
歯を失うことに
よる影響
シニア世代になると、歯周病やむし歯で歯を失う人が増える傾向にあります。
ある調査では、1本の歯を入れ歯にしただけでかむ力は約10%落ち、総入れ歯だと約70%落ちるといわれています。かむ力が低下することがどのようなことをもたらすのでしょうか?
かむことは、抗菌や清浄の役割のある唾液の分泌を促す働きがあります。
唾液は、他の病気や服用する薬の影響などから、分泌量が減ることもありますが、かむ力が弱まり、よくかまなくなると分泌量が減ってしまうのです。そのため口の中が乾き、細菌が増殖しやすくなります。舌苔(ぜったい:舌の表面の突起のすき間に堆積する食べカス、細菌)も増えやすくなり、口臭も強くなりがちです。このように、お口の中の衛生状態が悪化しやすくなり、歯周病やむし歯にかかりやすくなるのです。
また、かむ力が弱くなり、唾液の量が少なくなって食べ物がのどを通りにくくなると、食べ物を飲みこみにくくなり、消化が悪くなります。また、食べる量が減り、食べ物の種類がかたよってしまいます。そうすると栄養状態が悪くなり、体力や筋力も低下しやすくなります。お口の中の環境だけでなく、全身の健康にも大きな影響を及ぼしてしまうのです。

普段から歯みがきを習慣づけ、お口の中を清潔に保つことで健康な歯を残し、しっかり「かむ」ことがとても大切であることがおわかりいただけたと思います。また、もし歯が抜けてしまった際には1本でも放置せず、歯科医の指導のもとで、入れ歯やインプラントなどでしっかりかめる歯と口を維持することが大事です。
かむ力を維持すると、
様々な効用があります
大事なことは、普段からよく「かむ」機会を増やすことです。
日ごろからよくかんで食べることで、唾液が出やすくなります。お食事の際、一口入れて30回以上かむのが理想です。根菜など自然とかむ回数が多くなる食べ物を取り入れ、食材を刻むサイズを工夫してみるのもいいでしょう。食べ物の消化もよくなることから、全身の健康維持にもつながります。よくかむことで、脳の血流がよくなり、認知症予防にもつながります。
また、固い物をかみ砕いて飲みこむことで飲みこむ力の維持につながります。食事を提供する側は軟らかい食品に偏らないよう、むしろ献立にかみごたえのある食品を1品取り入れる工夫でお口の筋力維持を促しましょう。おしゃべり、歌、本の朗読などお口をよく動かすこともかむ力を鍛えるのに役立ちます。そして、かむための筋肉を維持するため、さらには足腰の筋肉を維持するため、体力・筋力が低下しがちなシニア世代は意識的にたんぱく質をしっかり摂ることが大切です。
唾液を出しや
すくする方法
唾液を出しやすくするには、食事のときによくかむことが重要ですが、それ以外にも、普段から水分を多めにとること、よく話すこと、口や舌をよく動かすことで、唾液が出やすくなります。また、耳下腺(じかせん)、顎下腺(がっかせん)、舌下腺(ぜっかせん)をマッサージすると唾液が出やすくなります。

口臭ケア
シニア世代になると、
口臭で悩む方が増えてきます。
口臭の原因は様々です。お口の中の衛生状況や歯周病、むし歯が原因の場合もあれば、鼻、のど、胃腸、その他の全身疾患に関連した口臭もあります。まずは、歯科医院での診察をおすすめします。
普段のお口のケアによって行える口臭対策は、以下の通りです。
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清潔に保つ
普段からお口の中を清潔に保つことと(食後の歯みがき、歯間ブラシ・デンタルフロスなどによる清掃、洗口液などを使ったうがい、舌苔を除去する舌クリーナーの使用)
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乾燥を防ぐ
お口の中の乾燥を防ぐこと(普段からよくかむこと、唾液を出しやすくするマッサージ=上記参照、デンタルリンスによるうがい、保湿用マウススプレーの使用)
災害への備え
地震や津波などの災害時、水不足で歯みがきの頻度が減ることで、お口の中の衛生状況が悪化する傾向にあります。そうした際、体力や体の抵抗力が低下し、お口の中が乾きやすい高齢者は、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん:食べ物や飲み物、細菌が唾液と共に肺に流れ込んで生じる肺炎)にかかりやすく、重症化しやすいため、地震や津波から逃れた後の避難生活の中で亡くなる方が多いとの報告があります。
これに対して、普段から行えることは、以下のとおりです。
平常時からお口の中を清潔に保つ習慣づけを行うこと
避難時に持ち出す非常用グッズの備蓄品に、ハブラシのほか、洗口剤(液体ハミガキ、洗口液)、はみがきシートなど、水を使わずに歯と口のケアができるものを入れておくこと
入れ歯をお使いの方は、非難時に入れ歯を置き忘れたまま逃げてしまわないよう、普段から置き場所を工夫する、防災袋に「入れ歯を持っていく」などのメモを残すといった、置き忘れ予防策を講じること

毎日の歯と口の
ケアと定期的な
歯科健診が大切
日本は、65才以上の高齢者の割合が27%を超える世界で最も急速に高齢化が進んだ国で、平均寿命も男性81.09才、女性87.26才(2017年)と世界トップクラスの長寿国です。しかし、日常的に介護を必要とせず自立した生活ができる生存期間「健康寿命」は70才台前半に留まっています。つまり、日本人は、平均すると、晩年の10年前後を介護されながら過ごしていることとなり、「健康寿命」をいかに延ばすかが大きな課題になっています。
元気で楽しく長生きするためには、自分の口でしっかり食事ができ、会話ができるよう、歯とお口の健康を保つことが大事です。また、歯周病の予防・治療が、糖尿病、心臓・血管疾患など様々な生活習慣病の予防・症状軽減にもつながり、「健康寿命」を延ばす鍵として注目を集めています。全身の健康を守るためにも、歯とお口のケアと、お口の機能・筋力の維持をしっかり行っていきましょう。
平均寿命と健康寿命

3回にわたって、シニアのオーラルケアについて説明してきました。元気で長生きするためには、毎日の歯と口のケアがより一層大切になることがわかります。また、日ごろのケアだけではカバーしきれないトラブルも増えてくるので、半年に1回は、歯科医院で歯の定期健診を受けるようにしましょう。
